チェコのボヘミアングラスと同様に、スロヴァキアにも200年の伝統を誇る、クリスタルグラスの産業があります。今日は、スロヴァキアに残る唯一の手作りガラス製造会社、ケリ(Kelli)をご紹介しましょう。
1747年、トレンチーン(Trencin)市近くのスカルカ(Skalka)村にある修道院出身の一人のイエズス会修道士が、そのスカルカ村からさほど遠くないガーペル(Gapel)村にガラス工場を設立しました。その後、1956年に、現在のヴァラスカー・ベラ(Valaska Bela)村に移り、クリスタルグラス製造会社として根を下ろしました。そこで、様々な変化をみながらも伝統は受け継がれ、1996年には需要の増加に伴い、独立したガラス工場経営を確立。現在は有限会社ケリがこれらのガラスの製造、販売をしています。スロヴァキア国内はもちろんのこと、海外への輸出も盛んです。取引先はヨーロッパの各国々を始め、中近東、アジア、アメリカ、南アフリカ、オーストラリアまで及びます。
そのケリが、生産量を拡大するために、2004年3月から7月にかけて、工場を新しくしました。炉で24時間溶解し続ける3.5トンの原料を鉄の棒で掬っては吹いて、型に入れて形にしていきます。また、ガラスを冷やすための釜も、今までの3.5倍も収容できるものが設置されました。そのおかげで、背の高い40cmの花瓶も生産可能になったということです。
さて、その新しく建ったばかりの工場に入ると、ムンとした熱気が立ち込めます。そこには、真っ赤に燃える炉の周りでグラスを作る職人さんたちの姿がありました。中央に位置する炉の温度は最大1410度。なるほど、暑いわけです。炉で溶解した原料を鉄の棒で掬い、それを少し吹いてから水の中で木製の型に入れ、型の中でガラスを回しながら形を作ります。型は木製なので、長く使用すると焼けて変形してしまいます。そのため、こまめに型を作り直さなければなりません。
形ができたら型から外し、ワイングラスの底の部分などを付け足します。それも、新たに炉から原料をとって、柄に付け、熱いうちに平らにし、研削していくのですから、見事なものです。年齢層は30歳から50歳ぐらいでしょうか。どちらかといえば、50歳代の方が多かったように思います。豊富な経験と、良いものを作ることは、比例すると伺いました。
昔はこの工場に学校もあったそうですが、今では、少し離れたレドニツケー・ロヴネ(Lednicke Rovne)に、ガラス教育をする専門学校があるそうです。次の世代を担うガラス職人さんは、そこで勉強、修行をしていきます。
さて、先ほどの建物を出て、少し奥に入ったところには、装飾と研磨する場所があります。中では、職人さんが椅子に腰掛け、手元に集中しています。口数少ないながらも教えてくれたことは、カットを施す際に、削り滓が散らないように水を常にガラスに吹きかけるようにして作業する、ということでした。まだ、装飾の付いていないガラスを見ると、模様を付ける位置を升目に分けて、青いマジックで印をしていることがわかります。模様が付けられると、最後は研磨機にかけられて一応の完成をみます。ただ、この後にも、厳しいコントロールが控えていて、審査に合格したもののみが出荷されます。一日の出荷量はワイングラス類が1120個、タンブラーが166個、その他の大きめの製品43個が平均だそうです。
ここでは、特別注文も受注していて、カタログの中から自分の用途にあったものと、好みの模様を選んでコンビネーションすることができます。また、稀ですが、模様もカタログにないものをデザインするところから注文することもできるそうです。デザインは年に一度、デザイナーが新しいものを作りますが、このように、特別注文や、ケリが何かの展示会に出品するときにも、臨時でデザインしてもらうとのことです。ワイングラスや、お皿、花瓶などの種類は数多くあり、模様も数限りなくあります。あまりにも種類が多いので、全てを見ることはできないし、私を案内してくださったリシオヴァー(Lisyova)さんも、特注なども含めた全ての数は把握できないと話していました。
ただ一つ「これだけは覚えておいて下さい」と言って見せていただいたのが、「500番」と番号の付いた装飾です。これは、グラス全体に、花のような星のような模様が規則的に並べてあるもので、一番伝統的な柄です。アラブ諸国や、アジア、スロヴァキアでも年輩の方には、このように全体に装飾を施したものが好まれ、西、中央ヨーロッパや若い世代には、シンプルで比較的新しいデザインが人気を得ているそうです。
最近では、ケリは、大阪見本市にも出品しました。日本の百貨店でもスロヴァキア製のクリスタルグラスを見かけましたが、あれはケリのものかどうか、という私の問いに対して「それはスロヴァキアのもう一つのクリスタル製造会社、スロヴグラス(Slovglass)です。機械生産のものなので、大量生産できますし、価格も低いはずです。」とリシオヴァーさんは説明してくれました。
日本人の私たちにも非常に魅力的なこのクリスタルグラス。スロヴァキアでも、このようなクリスタルグラスは一家に少なくとも一つは持っていて、家宝として大切に扱っていると、地元出身のケリで働く従業員の一人が話してくれました。
ケリは日本の多くの人に、この手作り工芸品を見ていただきたいと話しています。CrystalBelaという名で、このケリの製品が日本の家庭に家宝のごとく登場するのも、そう遠くはないかもしれません。

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